アスベスト調査が義務化!内装リフォーム工事前の注意点
今では使われなくなった建築資材は意外多くあります。
アスベストを含む建材はその内の1つです。毒性が疑われ、使われなくなりました。
さて、昔の住居をフルリノベーションする際には内装工事が必要です。その工事の際には、アスベストが人体に接するかも知れません。
そのため、古いマンションや住居の内装工事にはアスベスト調査が必要となります。
ところで、住居の内装工事を発注する側としては、アスベスト調査に関しても知った方がベターです。
そこで、ここではアスベストの性質から取り上げ、アスベスト調査の必要性や法規関連について解説します。
目次
アスベストとは
まずはアスベストとは何かについて取り上げます。
アスベストの特徴
アスベストは石綿とも呼ばれ、繊維状の鉱物を主原料ととした素材です。非常に細くまで分かれる特徴があります。
また、元々が鉱物のため不燃であり、しかも加工性が良いため、建築分野に多く使われていました。
アスベストが使われた時期は長く、明治20年代からはじまり、平成18年まで輸入され続けました。ピークは昭和40年代で、年間に30万トンを超える量が輸入されています。
使われなくなったキッカケは、大手機械メーカーのアスベストを扱った工場で、アスベスト関連の健康被害が続出したことです。従業員や退職者、近隣住民に中皮腫などの石綿関連の患者が多数発生しました。
尚、その頃に建てられた建築物は今でも現役で使われています。マンションや戸建て住宅の例を考えるならば、築50年クラスの建物は少なくありません。アスベストの危険性が疑われる建築物は少なくないのです。
アスベストの危険性
前述のように、アスベストが使われなくなったのは人体による悪影響です。
ここでは、アスベストの危険性について改めて解説しましょう。
発がん性
アスベストの最大の問題は発がん性です。
前述のように、アスベストは繊維状の鉱物で、しかも非常に細かく分かれます。その分かれた鉱物が肺に入り込むと簡単には排出されません。体内に長期間留まり、中皮腫などの悪性腫瘍が発生するのです。
尚、中皮腫の治療は難しく、しかも治りにくいです。診断ができてからの余命は7~17ヵ月とも言われるため、非常に恐ろしい疾患と言えるでしょう。
呼吸器疾患の原因物質
アスベストは呼吸器疾患の原因物質です。中皮腫をはじめ、肺がん、石綿肺、びまん性胸膜肥厚などの原因となります。
中皮腫は前述の通りですが、肺がんも危険です。発見時には相当に進行しているケースが少なくありません。
また、石綿肺は肺が線維化する疾患で、息切れや運動能力の低下などが代表的な症状です。
そして、びまん性胸膜肥大は肺が膨らまなくなり、呼吸困難にまで陥いるケースがあります。
発症時期が分からない
アスベスト被害による疾患はいつ発症するかが分かりません。
吸い込んでから15~40年レベルの長い期間を経て発症するケースが珍しくないのです。
そのため、過去に職業でアスベストを吸い込んだ人には、今でもアスベストを起因とする呼吸機疾患のリスクが残ります。
簡単に粉塵になる
アスベストは加工性が良い点がメリットです。
素材の加工性は物作りの点で重要のため、様々な場面でアスベストが登場した経緯が伺えます。
しかし、加工性が良い点が逆に危険とも言えます。
それは、アスベストが簡単に粉塵になるからです。切ったり穴を開けたりする段階で粉塵となり、作業者に吸い込まれてしまうのです。
そして、一旦吸い込まれたアスベストは、そのまま体内に留まります。それが蓄積すると発症のリスクが上がるのです。
内装工事に使ったアスベストの例
このように、アスベストは非常に危険な物質です。
しかし、その危険性が知られることなく使われていた時代が長くありました。
ここでは、内装工事に使ったアスベストの例を取り上げます。
アスベストの例①:天井
天井は防火の点で非常に重要な部分です。火炎は上に向かって燃え広がります。火災の場合、建物の構造によっては上の階にまで燃え移るでしょう。
さて、アスベストは防火のため、天井材に多く使われていました。天井はボード材で構成されますが、そのボード材にアスベストが含まれていたのです。
例えば、スレートボードや、けい酸カルシウム板などは、天井材としてポピュラーでしたが、ある時期に造られたものはアスベスト含有が疑われます。
尚、天井材がアスベストを含むか否かは目視では簡単には分かりません。
アスベストの例②:壁材
壁材は天井材のようなボード材に加え、塗り壁に含まれているケースがあります。
例えば、和室は「聚楽壁」「砂壁」「京壁」を内装としていますが、これらはアスベスト含有の可能性があるため、調査が特に必要です。
尚、この内装材においても外観が非常に似ているものが多くあります。目視では判別ができないため、専門家に相談すべきです。
アスベストの例③:床
床材はビニル系の床材や接着剤に使われた経緯があります。
アスベストは耐熱性や寸法安定性などが向上するために混入されました。
代表例としては、ビニル系の床タイルがあります。素材にアスベストが練り込まれているため、外観からの区別はできません。
また、床材には塗装を施したタイプがありますが、その中にはアスベスト含有の塗料を使用したものがあります。
塗料の場合も外観からはアスベストの有無は判断ができません。
アスベストの例④:吹き付け材
アスベストは吹き付け材としても使われました。使用した目的は断熱や防音です。
扱いが比較的容易で、しかも燃えないため、多くの建築物に使われたのです。使われた箇所は壁や天井のほか、機械室や煙突などでした。
尚、吹き付けアスベストに似た素材にロックウールがあります。ロックウールはアスベストとは違いますが、素人判断で見分けようとすべきではありません。専門家に相談しましょう。
内装工事でなぜアスベスト調査が必要か
ここで、内装工事でなぜアスベスト調査が必要かを解説します。
使用した建物が多く残っているから
まず挙げられる点は「使用した建物が多く残っているから」です。
アスベストは非常に長い期間に使用されていました。それらの建物の多くが今でも現役で使われています。
例えば、アパートやマンションには築50年クラスの物件があります。その時期のビルの内装は、アスベストを使用していた可能性があります。
そして、アスベストは危険物質のために管理が必要です。アスベスト調査は管理の一環として必要なのです。
危険物質のため
アスベストの持つ毒性も調査が必要な理由の1つです。
前述のように、アスベストは発がん物質であり、しかも発症する疾患は中皮腫のような非常に危険な疾患です。
そして、アスベストによる疾患は治療が簡単ではありません。
しかも、がんには気が付いた時には手遅れのケースが少なくありません。体調が悪くて受診をしたときに医師から余命を告げられるケースもあり得るのです。
このように、アスベストの毒性は非常に高いです。管理の必要な危険物質であるため、調査が行われるのです。
周囲への飛散も懸念されるから
周囲への飛散の可能性も調査が必要な理由の1つです。
前述のように、アスベストは飛散しやすい物質です。そのため、アスベストは周囲の他の場所まで汚染する可能性があります。
例えば、内装工事の場合、アスベスト含有材を解体する場所から、ミクロとなったアスベストが飛散するケースが考えられます。その場合には、その工事に従事していた作業員全員に健康被害の危険性が生じるでしょう。
そのため、アスベスト含有材は管理が必要となり、調査が必要となるのです。
アスベスト法について
アスベストは危険物質のため、法律によって規制が掛けられています。
ここではアスベストに関連する法規について紹介します。
アスベストは法規制がある
アスベスト問題は各省庁で法律を定めて規制しています。
主なものとしては、作業員の労働安全衛生の観点からの規制、健康被害の予防及び救済のための規制、大気汚染防止のための規制、建築物の規制、廃棄物処理のための規制と、あらゆる角度から規制されています。
以下はアスベストの関連法規です。
- 労働安全衛生法(厚生労働省)
- 石綿障害予防規則(厚生労働省)
- 石綿による健康被害の救済に関する法律(環境省・厚生労働省)
- 大気汚染防止法(環境省)
- 建築基準法(国土交通省)
- 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(環境省)
その他、自治体単位で規定する条例もあります。
実際にアスベスト調査をする際には、各自治体の条例まで調査をしなければいけません。
参考:石綿総合情報ポータルサイト(厚生労働省)
調査には専門資格がある
アスベストは危険物質のため、調査は誰でも可能な訳ではありません。
調査には「建築物石綿含有建材調査者」の資格が必要です。
この資格は解体・改修する建築物や構造物のアスベストの有無を、中立・公正に調査する資格です。
厚生労働省・国土交通省・環境省の法律による講習の受講と試験の合格が資格取得の条件となります。
アスベスト事前調査と報告が義務の建築物・工作物
次に、アスベスト事前調査と報告が義務の建築物・工作物を紹介しましょう。
床面積が80㎡以上の解体工事
床面積が80㎡以上の解体工事の場合はアスベストの事前調査と報告が必要です。
この解体は自主解体であっても義務は発生します。
尚、この規制はあくまでも「床面積」です。また、一般住宅や倉庫に関しても対象となります。
請負代金の合計額が100万円以上の建築物・工作物の解体・補修工事
請負代金の合計額が100万円以上の建築物・工作物の解体・補修に関しても調査・報告が必要です。
報告義務のない工事について
アスベスト事前調査の報告義務がない工事もあります。
これは床面積が80㎡未満の場合です。また、請負金額が100万円未満であれば義務は免除されます。
尚、平成18年9月1日以降の建築物はアスベスト使用が禁止されたため、書面調査で事前調査報告書を作成できます。
ただし、2008年2月5日以前の調査結果のものは再調査をしなければいけません。これは、2月6日付けの通達(厚生労働省)により、分析対象のアスベストの幅が広がったからです。
他にも、発注者に対しては書面による報告・調査結果提示・事前調査結果報告は義務となります。
アスベスト調査の流れ
ここではアスベスト調査の流れについて取り上げます。
尚、この知識はマンションや戸建て住宅の内装を解体する側としても知っておくべきです。打合せをスムーズに進めるためにも、工程を覚えておきましょう。
アスベスト調査の流れ①:ヒアリング
最初に行われる工程がヒアリングです。
アスベストの専門家を交え、工事対象となる部分を確認します。
アスベスト調査の流れ②:現地調査・図面調査
次に行われる工程が現地調査と図面調査です。専門家でなければ、なかなか分からない工程です。
図面には建物の仕様や設計の日付などが記載されているため、重要な手掛かりとなります。
また、調査は図面だけでは済まない場合もあります。その時には現地に調査に出向き、詳細を確認します。
アスベスト調査の流れ③:試料の採取
アスベストは目視で分かるとは限りません。
例えば、アスベストを練り込んだ素材などは目視では判断が難しいです。その場合には試料を採取して分析にまわします。
尚、資料の採取は特に危険な作業と言えます。専門家に一任しましょう。
アスベスト調査の流れ④:分析
採取した試料をもとにアスベストの含有状況を分析します。
分析方法は2つあり、1つ目がアスベスト繊維を見つけて顕微鏡で特定する方法で、2つ目がX線回析装置を使う方法です。
アスベストの混入した資材には判別の困難なものがありますが、これらの方法はミクロン単位まで発見します。非常に信頼性は高いです。
この方法はJIS(日本産業規格)で規定されている方法で、国内では標準化されています。
アスベスト調査の流れ⑤:報告書の作成
最後に行う工程が報告書の作成です。
報告書を作成した後、各都道府県や労働基準監督署に提出します。
まとめ
内装工事とアスベスト調査について取り上げました。
改めてアスベストの危険性について、そして調査の重要性について確認ができたと思います。
また、これから戸建てやマンションの内装工事に取り掛かる担当者には、従業員の健康被害を懸念した人もいるでしょう。
アスベストは労働安全衛生だけではなく、法律的には大気汚染絡みとしても扱われます。
戸建てやマンションの内装工事を行う際には、アスベストの危険性を十分に踏まえ、適切な手続きを取りましょう。
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